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【事例付き】人的資本の情報開示に向けた人事担当者がやるべきこと

更新日:2023/11/01

「人的資本経営」は従来の「経営」と何が異なるのか、具体的にどんなことに取り組めばよいのかわからないという人事・採用担当者も少なくないのではないでしょうか。
「ヒト=人的資本」という考え方により、これからの人事戦略は、企業の優位性に貢献できているかどうかを客観的に評価され、投資の判断材料に用いられるようになることが予測されます。
人的資本の情報開示を求める潮流は高まり、日本も上場企業を対象に義務化されました。中小企業もじきに開示を求められることが考えられるでしょう。

今回は、人事戦略に取り組むべき人的資本の考え方を解説します。



人的資本の情報開示に向けた必要な視点と共通要素

経済産業省が発表している「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書~ 人材版伊藤レポート ~」では、人的資本の情報開示に向けた必要な3つの視点と5つの共通要素を策定しています。(図1)
「企業においては、自社の経営戦略上重要な人材アジェンダについて、経営戦略とのつながりを意識しながら、具体の戦略・アクション・KPI を考えることが有効である」としており、対応が必要な上場企業は各社にて人的資本の情報開示の策定を進めています。

人的資本経営の実現に向けた必要な視点 プレシキ!SCHOOL|プレシキ!スクール
図1:経済産業省「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書~ 人材版伊藤レポート ~」p.32『人材戦略に求められる3つの視点・5つの共通要素』

人的資本の情報開示に向けた人事が意識すべきポイントと取り組み事例

令和4年5月、経済産業省は上場企業を対象に行った『人的資本経営に関する調査』の集計結果を発表しました。 (※2)
調査によると、人的資本経営の取り組み進捗として、「企業理念・存在意義・経営戦略の明確化」が進む一方で、 「経営戦略と人材戦略の連動」の進捗は相対的に遅れていることがわかり、経営陣は、「経営戦略は明確化されているものの、人材戦略への連動には至っていない」と考えていることが読み取れます。人事・採用担当者は「経営戦略と人材戦略の紐づけ」を今一度、最重視する必要があると言えるでしょう。経営戦略とのつながりを意識したうえで自社の人材戦略に落とし込み、KPIやアクション設定を行うことが重要です。
ここでは、経済産業省が発表している「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書~人材版伊藤レポート2.0~実践事例集」をもとに、経営戦略と人材戦略の紐付けの取り組み事例を紹介します。(※3)
※2:経済産業省『人的資本経営に関する調査 集計結果』
※3:経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書~人材版伊藤レポート2.0~実践事例集」

【事例1】双日株式会社

【エリア】東京都 
【設立】2003年(前身企業:1862年創業)
【業種】卸売小売業
総合商社として、物品の売買及び貿易業をはじめ、国内外における各種製品の製造・販売やサービスの提供、各種プロジェクトの企画・調整、各種事業分野への投資などグローバルに多角的な事業を展開している企業

■人材KPIの可視化による経営戦略との連動
双日株式会社は人材戦略を支える3つの柱として「多様性を活かす」「挑戦を促す」「成長を実感できる」を掲げ、それぞれの柱に対して定量的な目標を明確にしています。また、経営層の目標だけでなく、実際に社員へ意識調査を行っていることから、社員の人的資本としての価値をさらに高め、社員のエンゲージメント向上を図っています。

人的資本経営の実現に向けた双日株式会社の事例 プレシキ!SCHOOL|プレシキ!スクール

経営戦略と人材戦略の連動には、定量的な目標の設計や可視化による数値管理が重要なことが読み取れます。最終的に、社員一人一人はもちろん、企業価値向上へつなげていくことができる事例の一つと言えるでしょう。

【事例2】三井化学株式会社

【エリア】東京都
【設立】1995年
【業種】製造業
ライフ&ヘルスケア、モビリティ、ICT、ベーシック&グリーンマテリアルズ等の素材製造、ソリューション事業展開している企業

■経営戦略・社員の声をもとに、組織・人材課題を体系化
三井化学株式会社はビジネスモデル転換を伴う経営計画と連動して、人材戦略を体系的に明確化し、具体的な方策までを社外に開示しています。
2016年に経営計画に連動した人材戦略を策定し、5つの主要課題を特定。2021年には新経営計画の策定を踏まえ、5つの主要課題から「人材の獲得・育成・リテンション」「従業員エンゲージメント向上」「グループグローバル経営強化」の3つを優先課題として特定しました。さらに、課題解消に向けて実行すべき方策を立てるとともに、育成面においてはタレントマネジメントを強化し、次なる経営者候補の育成に努めています。グループ・グローバルで100程度の戦略重要・育成ポジションを定め、戦略的タレントマネジメントを行い、経営計画を推進しています。
経営計画をもとに人材戦略を策定、その課題から実現までの施策を打つ模範となる事例の一つでしょう。

人的資本経営の実現に向けた三井化学株式会社の事例 プレシキ!SCHOOL|プレシキ!スクール

【事例3】キリンホールディングス株式会社

【エリア】東京都
【設立】1907年創業
【業種】食料品・医薬品製造業
飲料や医薬品や健康に関連する商品等の製造販売業等、グループ会社の経営管理等を行っている企業

■人財の強みと多様性を融合
キリンホールディングス株式会社は食と医療の領域で築き上げた組織の強みを活かした新領域参入、強化領域での専門人財の採用により、経営戦略と人財戦略を双方向に強く連動させてきました。

人的資本経営の実現に向けたキリンホールディングス株式会社の事例 プレシキ!SCHOOL|プレシキ!スクール

経営戦略に基づいて人材戦略を発想するのではなく、人材の持つ強みを生かしてヘルスサイエンス領域へ参入したように、人材戦略から経営戦略を生み出す発想で経営戦略と人材戦略を連動させていることがわかります。経営戦略と人材戦略の紐付ける方法は多様で、凝り固まった思考ではなく、自社ならではの思考が必要と言えるでしょう。

【事例4】東京海上ホールディングス株式会社

【エリア】東京都 ※一部、東京海上日動火災保健株式会社についての記載も含む
【設立】1879年創業
【業種】金融・保健業
グループ保健会社等の経営管理等を行っている企業

■戦略的な人事制度によるポートフォリオの最適化
東京海上ホールディングス株式会社は、トップタレントの獲得やグローバル経営人材の育成を目的とした人事制度を導入しました。 幅広い世代向けに経営人材育成プログラムを実施し、将来の経営リーダーを拡充してきています。

人的資本経営の実現に向けた東京海上ホールディングス株式会社の事例 プレシキ!SCHOOL|プレシキ!スクール

自社の持続的な成長を見据えて、人材要件定義を経営陣レベルに定義して、人材を育成する形で経営戦略と人材戦略を行っていることがわかります。

日本独特の雇用慣行である「終身雇用」や「年功序列」といった雇用システムから一変して、年齢や在籍年数に関わらず、能力のある人材の配置を進めていることがあたりまえになってきています。そのため、これからは、グローバルな視点で自社の経営を見直し、人材戦略もグローバル視点で設計されていくことが求められていくことが予測できます。

まとめ

人的資本という考え方は、今までの日本の労働概念において新たな風を吹かせており、企業は「ヒト」が生み出す価値に着目して、投資をしていく考え方にシフトしていく必要があります。
人的資本の情報開示は、人事・採用担当者のみで実現できるものではなく、経営陣との連携が欠かせません。人事戦略に取り込むべき人的資本の考え方を理解し、経営戦略と人事戦略を紐づけるところから始めてみましょう。

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